2013年05月23日

住まいの潮流 プロローグその2  建築基準法の役割:最低の基準と生存権 

住まいの潮流 プロローグその2  建築基準法の役割:最低の基準と生存権 「時ノ寿木組の家」

NPO法人時ノ寿の森クラブと協働した山から始まる家づくりの提案


住まいの潮流 プロローグその2   
     建築基準法の役割:最低の基準と生存権   

今回は固い話なので、読むのが面倒な人はスルーしてください。

”日本は、戦後約70年ほどかけて、なぜ資産とならない住まいをつくる続けたか…”と言う問いに、まとめると4つに収束する。

 ”住宅政策、ハウスメーカーのクローズドな家づくり、自分勝手な家づくり、土地に対する意識”の4つと南先生は指摘する。

 しかし今日は、南先生が取りあげないが、原因をつくったと思う、もう一つの理由である建築基準法の役割について考えてみたい。

 建築基準法第1条第1項では
 「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、持って公共の福祉の増進に資することを目的とする。」 と規定されている。

 耐震偽装事件で知った方も多いかもしれないが、建築基準法は「最低の基準」を定めているにすぎない。
 その成立の歴史を紐解くと、「最低の基準」は法案の変遷なかで、最終段階に付け加えられ、前述のような条文となった。
 
 草案はどうだったか。
 「この法律は、建築物及びその集団に関する基準を定めて国民の生命、健康、財産を保護すると共に、社会福祉、産業能率及び国民文化の改善、向上に資することを目的とする」

 草案と成立した条文の大きく異なる点は、
1)最低の基準の挿入。 
2)公共の福祉に関する概念規定の抽象化。
 の2点と考えられる。

住まいの潮流 プロローグその2  建築基準法の役割:最低の基準と生存権 


 1)最低の基準に関しては、当時の建設省の担当者は次のように回想している。

 ”基準は法律で定める基準の一つの標準にすぎない、地方自治体の自主性によってこの基準を再検討する機会を与えることで、地方自治推進を指向する意味をもたせるものであり、労働基準法の第1条とまったく同じだ”と思った。
                       岡辺重雄「建築基準法の立案過程と背景」日本建築学会

 しかし、最終的に地方自治を促進する条項は削除され、結果、建築基準法の運用において、”この基準を理由として個々の建築の水準を最低限のものとする”、”その向上は図りがたい”という意識を作り出したことも事実だろう。

 ”資産になる家”の評価基準である質の確保がおろそかになった点で、この「最低の基準」の意味するところは大きい。
 より以上の水準を目指す動機つけが明確でないならば、「顧客満足主義」とか「理想の家をお手伝い」とか言ったって、住まい手には、その品質がまるっきり見えていない家づくりを許してきたとことになる。
 

 次ぎに2)公共の福祉に関する概念規定の抽象化について考えてみる

 この公共の福祉に関する規定の抽象化、あるいは、後退は次のような結果をもたらした。
””建築基準法は建築主の財産権が優先される傾向にある、建築基準法は建築の自由という財産権をどう制限できるかとい線引きであり、居住者の保護という観点・生存権は直接 的な表現で示されていない。” 
 その結果”ナショナルミニマム(最低保障)が置き去りにされている、社会的弱者・居住者の保護、公共の福祉という観点が希薄である。”          
                    ‥‥平出小太郎「東京大学助教授」 建築環境から見た最低基準

   この点は前回のブログでも指摘したように、住宅を『人間の生存に欠かせない基盤』と考えず『商品』としてしまう、お寒い住環境の日本の現状がある。

  しかし考えるに、「最低の基準」にしても、「財産権の優先」にしても、住宅の住まい手がオーナー自身だとすれば、自分で自分の首を絞めているのに等しく、誰のための建築基準法であるべきかを真剣に考えべきだろう。
 かくして”資産にならない住宅”が、建築基準法に適法というお墨付けを頂きながらつくられ続けた。

 次回は、プロローグ その3 住宅政策の光と影  
です お楽しみに! ヨロシク(゚0゚)(。_。)ペコッ


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